かりの間《あひだ》に六度《むたび》七度《なゝたび》出《い》であひぬ。實《げ》に我《われ》も其日《そのひ》はじめて訪《と》ひ到《いた》れる友《とも》の家《いへ》を尋《たづ》ねあぐみしなりけり。
玉簾《たますだれ》の中《なか》もれ出《い》でたらんばかりの女《をんな》の俤《おもかげ》、顏《かほ》の色《いろ》白《しろ》きも衣《きぬ》の好《この》みも、紫陽花《あぢさゐ》の色《いろ》に照《てり》榮《は》えつ。蹴込《けこみ》の敷毛《しきげ》燃立《もえた》つばかり、ひら/\と夕風《ゆふかぜ》に※[#「彳+尚」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》へる状《さま》よ、何處《いづこ》、いづこ、夕顏《ゆふがほ》の宿《やど》やおとなふらん。
笛《ふえ》の音《ね》も聞《きこ》えずや、あはれ此《こ》のあたりに若《わか》き詩人《しじん》や住《す》める、うつくしき學士《がくし》やあると、折《をり》からの森《もり》の星《ほし》のゆかしかりしを、今《いま》も忘《わす》れず。さればゆかしさに、敢《あへ》て岡燒《をかやき》をせずして記《き》をつくる。
[#地から5字上げ]明治三十四年
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