《とえ》二十重《はたえ》に高く聳《た》ち、遥《はるか》に連《つらな》る雪の山脈も、旅籠《はたご》の炬燵《こたつ》も、釜《かま》も、釜の下なる火も、果《はて》は虎杖の家、お米さんの薄色の袖、紫陽花《あじさい》、紫の花も……お米さんの素足さえ、きっぱりと見えました。が、脈を打って吹雪が来ると、呼吸は咽《むせ》んで、目は盲《めしい》のようになるのでありました。
 最早《もはや》、最後かと思う時に、鎮守の社《やしろ》が目の前にあることに心着いたのであります。同時に峰の尖《とが》ったような真白《まっしろ》な杉の大木を見ました。
 雪難之碑のある処――
 天狗――魔の手など意識しましたのは、その樹のせいかも知れません。ただしこれに目標《めじるし》が出来たためか、背に根が生えたようになって、倒れている雪の丘の飛移るような思いはなくなりました。
 まことは、両側にまだ家のありました頃は、――中に旅籠も交っています――一面識はなくっても、同じ汽車に乗った人たちが、疎《まばら》にも、それぞれの二階に籠《こも》っているらしい、それこそ親友が附添っているように、気丈夫に頼母《たのも》しかったのであります。もっ
前へ 次へ
全17ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング