るように消えました。
 と思うと、忽然《こつねん》として、顕れて、むくと躍って、卓子《テエブル》の真中《まんなか》へ高く乗った。雪を払えば咽喉《のど》白くして、茶の斑《まだら》なる、畑《はた》将軍のさながら犬獅子《けんじし》……
 ウオオオオ!
 肩を聳《そばだ》て、前脚をスクと立てて、耳がその円天井《まるてんじょう》へ届くかとして、嚇《かっ》と大口を開けて、まがみは遠く黒板に呼吸《いき》を吐いた――
 黒板は一面|真白《まっしろ》な雪に変りました。
 この猛犬は、――土地ではまだ、深山《みやま》にかくれて活《い》きている事を信ぜられています――雪中行軍に擬して、中の河内《かわち》を柳ヶ瀬へ抜けようとした冒険に、教授が二人、某《それの》中学生が十五人、無慙《むざん》にも凍死をしたのでした。――七年|前《ぜん》――
 雪難之碑はその記念だそうであります。
 ――その時、かねて校庭に養われて、嚮導《きょうどう》に立った犬の、恥じて自ら殺したとも言い、しからずと言うのが――ここに顕れたのでありました。
 一行が遭難の日は、学校に例として、食饌《しょくせん》を備えるそうです。ちょうどその夜《よ
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