て、背嚢も解かず、銃を引つけたまま、大皿に装《よそ》った、握飯、赤飯、煮染《にしめ》をてんでんに取っています。
頭《かしら》を振り、足ぶみをするのなぞ見えますけれども、声は籠って聞えません。
――わあ――
と罵《ののし》るか、笑うか、一つ大声が響いたと思うと、あの長靴なのが、つかつかと進んで、半月|形《がた》の講壇に上って、ツと身を一方に開くと、一人、真《まっ》すぐに進んで、正面の黒板へ白墨《チョオク》を手にして、何事をか記すのです、――勿論、武装のままでありました。
何にも、黒板へ顕れません。
続いて一人、また同じ事をしました。
が、何にも黒板へ顕れません。
十六人が十六人、同じようなことをした。最後に、肩と頭《かしら》と一団になったと思うと――その隊長と思うのが、衝《つつ》と面《おもて》を背けました時――苛《いら》つように、自棄《やけ》のように、てんでんに、一斉《いちどき》に白墨《チョオク》を投げました。雪が群って散るようです。
「気をつけ。」
つつと鷲《わし》が片翼を長く開いたように、壇をかけて列が整う。
「右向け、右――前へ!」
入口が背後にあるか、……吸わる
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