、扉が開《あ》いた。
 余りの嬉しさに、雪に一度手を支《つか》えて、鎮守の方を遥拝《ようはい》しつつ、建ものの、戸を入りました。
 学校――中学校です。
 ト、犬は廊下を、どこへ行ったか分りません。
 途端に……
 ざっざっと、あの続いた渦が、一ツずつ数万の蛾《が》の群ったような、一人の人の形になって、縦隊一列に入って来ました。雪で束《つか》ねたようですが、いずれも演習行軍の装《よそおい》して、真先《まっさき》なのは刀《とう》を取って、ぴたりと胸にあてている。それが長靴を高く踏んでずかりと入る。あとから、背嚢《はいのう》、荷銃《にないづつ》したのを、一隊十七人まで数えました。
 うろつく者には、傍目《わきめ》も触《ふ》らず、粛然として廊下を長く打って、通って、広い講堂が、青白く映って開く、そこへ堂々と入ったのです。
「休め――」
 ……と声する。
 私は雪籠《ゆきごも》りの許《ゆるし》を受けようとして、たどたどと近づきましたが、扉のしまった中の様子を、硝子窓越《がらすまどごし》に、ふと見て茫然《ぼうぜん》と立ちました。
 真中《まんなか》の卓子《テエブル》を囲んで、入乱れつつ椅子に掛け
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