滝の雪は、目の前なる、ズツンと重い、大《おおき》な山の頂から一雪崩《ひとなだ》れに落ちて来るようにも見えました。
引挫《ひっし》がれた。
苦痛の顔の、醜さを隠そうと、裏も表も同じ雪の、厚く、重い、外套《がいとう》の袖を被《かぶ》ると、また青い火の影に、紫陽花の花に包まれますようで、且つ白羽二重の裏に薄萌黄《うすもえぎ》がすッと透《とお》るようでした。
ウオオオオ!
俄然《がぜん》として耳を噛《か》んだのは、凄《すご》く可恐《おそろし》い、且つ力ある犬の声でありました。
ウオオオオ!
虎の嘯《うそぶ》くとよりは、竜の吟ずるがごとき、凄烈《せいれつ》悲壮な声であります。
ウオオオオ!
三声を続けて鳴いたと思うと……雪をかついだ、太く逞《たくま》しい、しかし痩《や》せた、一頭の和犬、むく犬の、耳の青竹をそいだように立ったのが、吹雪の滝を、上の峰から、一直線に飛下りたごとく思われます。たちまち私の傍《そば》を近々と横ぎって、左右に雪の白泡《しらあわ》を、ざっと蹴立《けた》てて、あたかも水雷艇の荒浪を切るがごとく猛然として進みます。
あと、ものの一町ばかりは、真白《まっしろ》な
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