間《どま》で大釜《おほがま》の下《した》を焚《た》いて居《ゐ》ました。番頭《ばんとう》は帳場《ちやうば》に青《あを》い顏《かほ》をして居《ゐ》ました。が、無論《むろん》、自分《じぶん》たちが其《そ》の使《つかひ》に出《で》ようとは怪我《けが》にも言《い》はないのでありました。
二
「何《ど》う成《な》るのだらう……とにかくこれは尋常事《たゞごと》ぢやない。」
私《わたし》は幾度《いくたび》となく雪《ゆき》に轉《ころ》び、風《かぜ》に倒《たふ》れながら思《おも》つたのであります。
「天狗《てんぐ》の爲《な》す業《わざ》だ、――魔《ま》の業《わざ》だ。」
何《なに》しろ可恐《おそろし》い大《おほき》な手《て》が、白《しろ》い指紋《しもん》の大渦《おほうづ》を卷《ま》いて居《ゐ》るのだと思《おも》ひました。
いのちとりの吹雪《ふゞき》の中《なか》に――
最後《さいご》に倒《たふ》れたのは一《ひと》つの雪《ゆき》の丘《をか》です。――然《さ》うは言《い》つても、小高《こだか》い場所《ばしよ》に雪《ゆき》が積《つも》つたのではありません、粉雪《こゆき》の吹溜《ふきだま
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