\と輪《わ》を卷《ま》いて、一條《ひとすぢ》、ゆつたりと尾《を》を下《した》に垂《た》れたやうな形《かたち》のものが、降《ふ》りしきり、吹煽《ふきあふ》つて空中《くうちう》に薄黒《うすぐろ》い列《れつ》を造《つく》ります。
 見《み》て居《ゐ》るうちに、其《そ》の一《ひと》つが、ぱつと消《き》えるかと思《おも》ふと、忽《たちま》ち、ぽつと、續《つゞ》いて同《おな》じ形《かたち》が顯《あらは》れます。消《き》えるのではない、幽《かすか》に見《み》える若狹《わかさ》の岬《みさき》へ矢《や》の如《ごと》く白《しろ》く成《な》つて飛《と》ぶのです。一《ひと》つ一《ひと》つが皆《み》な然《さ》うでした。――吹雪《ふゞき》の渦《うづ》は湧《わ》いては飛《と》び、湧《わ》いては飛《と》びます。
 私《わたし》の耳《みゝ》を打《う》ち、鼻《はな》を捩《ね》ぢつゝ、いま、其《そ》の渦《うづ》が乘《の》つては飛《と》び、掠《かす》めては走《はし》るんです。
 大波《おほなみ》に漂《たゞよ》ふ小舟《こぶね》は、宙天《ちうてん》に搖上《ゆすりあげ》らるゝ時《とき》は、唯《たゞ》波《なみ》ばかり、白《しろ》き黒《くろ》き雲《くも》の一片《いつぺん》をも見《み》ず、奈落《ならく》に揉落《もみおと》さるゝ時《とき》は、海底《かいてい》の巖《いは》の根《ね》なる藻《も》の、紅《あか》き碧《あを》きをさへ見《み》ると言《い》ひます。
 風《かぜ》の一息《ひといき》死《し》ぬ、眞空《しんくう》の一瞬時《いつしゆんじ》には、町《まち》も、屋根《やね》も、軒下《のきした》の流《ながれ》も、其《そ》の屋根《やね》を壓《あつ》して果《はて》しなく十重《とへ》二十重《はたへ》に高《たか》く聳《た》ち、遙《はるか》に連《つらな》る雪《ゆき》の山脈《さんみやく》も、旅籠《はたご》の炬燵《こたつ》も、釜《かま》も、釜《かま》の下《した》なる火《ひ》も、果《はて》は虎杖《いたどり》の家《いへ》、お米《よね》さんの薄色《うすいろ》の袖《そで》、紫陽花《あぢさゐ》、紫《むらさき》の花《はな》も……お米《よね》さんの素足《すあし》さへ、きつぱりと見《み》えました。が、脈《みやく》を打《う》つて吹雪《ふゞき》が來《く》ると、呼吸《こきふ》は咽《むせ》んで、目《め》は盲《めしひ》のやうに成《な》るのでありました。
 最早《もはや
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