》のするのが思い取られるまで、腕組が、肘枕《ひじまくら》で、やがて夜具を引被《ひっかぶ》ってまで且つ思い、且つ悩み、幾度《いくたび》か逡巡《しゅんじゅん》した最後に、旅館をふらふらとなって、とうとう恩人を訪ねに出ました。
わざと途中、余所《よそ》で聞いて、虎杖村に憧憬《あこが》れ行《ゆ》く。……
道は鎮守がめあてでした。
白い、静《しずか》な、曇った日に、山吹も色が浅い、小流《こながれ》に、苔蒸《こけむ》した石の橋が架《かか》って、その奥に大きくはありませんが深く神寂《かんさ》びた社《やしろ》があって、大木の杉がすらすらと杉なりに並んでいます。入口の石の鳥居の左に、とりわけ暗く聳《そび》えた杉の下《もと》に、形はつい通りでありますが、雪難之碑と刻んだ、一基の石碑が見えました。
雪の難――荷担夫《にかつぎふ》、郵便配達の人たち、その昔は数多《あまた》の旅客も――これからさしかかって越えようとする峠路《とうげみち》で、しばしば命を殞《おと》したのでありますから、いずれその霊を祭ったのであろう、と大空の雲、重《かさな》る山、続く巓《いただき》、聳《そび》ゆる峰を見るにつけて、凄《すさ
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