えた刀鍛冶《かたなかじ》も住みました。今も鍛冶屋が軒を並べて、その中に、柳とともに目立つのは旅館であります。
が、もう目貫《めぬき》の町は過ぎた、次第に場末、町端《まちはず》れの――と言うとすぐに大《おおき》な山、嶮《けわし》い坂になります――あたりで。……この町を離れて、鎮守の宮を抜けますと、いま行《ゆ》こうとする、志す処へ着く筈《はず》なのです。
それは、――そこは――自分の口から申兼ねる次第でありますけれども、私の大恩人――いえいえ恩人で、そして、夢にも忘れられない美しい人の侘住居《わびずまい》なのであります。
侘住居と申します――以前は、北国《ほっこく》においても、旅館の設備においては、第一と世に知られたこの武生の中《うち》でも、その随一の旅館の娘で、二十六の年に、その頃の近国の知事の妾《おもいもの》になりました……妾《めかけ》とこそ言え、情深《なさけぶか》く、優《やさし》いのを、昔《いにしえ》の国主の貴婦人、簾中《れんちゅう》のように称《たた》えられたのが名にしおう中の河内《かわち》の山裾《やますそ》なる虎杖《いたどり》の里に、寂しく山家住居《やまがずまい》をしているの
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