は、その粉雪を、地《じ》ぐるみ煽立《あおりた》てますので、下からも吹上げ、左右からも吹捲《ふきま》くって、よく言うことですけれども、面《おもて》の向けようがないのです。
小児の足駄を思い出した頃は、実はもう穿《はき》ものなんぞ、疾《とう》の以前になかったのです。
しかし、御安心下さい。――雪の中を跣足《はだし》で歩行《ある》く事は、都会の坊ちゃんや嬢さんが吃驚《びっくり》なさるような、冷いものでないだけは取柄です。ズボリと踏込んだ一息の間は、冷《つめた》さ骨髄に徹するのですが、勢《いきおい》よく歩行《ある》いているうちには温くなります、ほかほかするくらいです。
やがて、六七町潜って出ました。
まだこの間は気丈夫でありました。町の中《うち》ですから両側に家が続いております。この辺は水の綺麗《きれい》な処で、軒下の両側を、清い波を打った小川が流れています。もっともそれなんぞ見えるような容易《やさし》い積り方じゃありません。
御存じの方は、武生と言えば、ああ、水のきれいな処かと言われます――この水が鐘を鍛えるのに適するそうで、釜《かま》、鍋《なべ》、庖丁、一切の名産――その昔は、聞
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