あの時分は、脇の下に羽でも生えていたんだろう。きっとそうに違いない。身軽に雪の上へ乗って飛べるように。」
 ……でなくっては、と呼吸《いき》も吐《つ》けない中《うち》で思いました。
 九歳《ここのつ》十歳《とお》ばかりのその小児《こども》は、雪下駄、竹草履、それは雪の凍《い》てた時、こんな晩には、柄にもない高足駄《たかあしだ》さえ穿《は》いていたのに、転びもしないで、しかも遊びに更けた正月の夜《よ》の十二時過ぎなど、近所の友だちにも別れると、ただ一人で、白い社《やしろ》の広い境内も抜ければ、邸町《やしきまち》の白い長い土塀も通る。……ザザッ、ごうと鳴って、川波、山颪《やまおろし》とともに吹いて来ると、ぐるぐると廻る車輪のごとき濃く黒ずんだ雪の渦に、くるくると舞いながら、ふわふわと済まアして内へ帰った――夢ではない。が、あれは雪に霊があって、小児を可愛《いとし》がって、連れて帰ったのであろうも知れない。
「ああ、酷《ひど》いぞ。」
 ハッと呼吸《いき》を引く。目口に吹込む粉雪《こゆき》に、ばッと背を向けて、そのたびに、風と反対の方へ真俯向《まうつむ》けになって防ぐのであります。こういう時
前へ 次へ
全18ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング