しました。
お米さんが、しなよく頷《うなず》きますと、
「左様か。」
と言って、これから滔々《とうとう》と弁じ出した。その弁ずるのが都会における私ども、なかま、なかまと申して私などは、ものの数でもないのですが、立派な、画の画伯方《せんせいがた》の名を呼んで、片端《かたっぱし》から、奴《やつ》がと苦り、あれめ、と蔑《さげす》み、小僧、と呵々《からから》と笑います。
私は五六尺|飛退《とびさが》って叩頭《おじぎ》をしました。
「汽車の時間がございますから。」
お米さんが、送って出ました。花菜の中を半《なかば》の時、私は香に咽《むせ》んで、涙ぐんだ声して、
「お寂しくおいでなさいましょう。」
と精一杯に言ったのです。
「いいえ、兄が一緒ですから……でも大雪の夜《よ》なぞは、町から道が絶えますと、ここに私一人きりで、五日も六日も暮しますよ。」
とほろりとしました。
「そのかわり夏は涼しゅうございます。避暑にいらっしゃい……お宿をしますよ。……その時分には、降るように蛍が飛んで、この水には菖蒲《あやめ》が咲きます。」
夜汽車の火の粉が、木の芽峠を蛍に飛んで、窓にはその菖蒲が咲いた
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