雪なす項《うなじ》が優しく清らかに俯向《うつむ》いたのです。
生意気に杖《ステッキ》を持って立っているのが、目くるめくばかりに思われました。
「私は……関……」
と名を申して、
「蔦屋さんのお嬢さんに、お目にかかりたくて参りました。」
「米は私《わたくし》でございます。」
と顔を上げて、清《すず》しい目で熟《じっ》と視《み》ました。
私の額は汗ばんだ。――あのいつか額に置かれた、手の影ばかり白く映る。
「まあ、関さん。――おとなにおなりなさいました……」
これですもの、可懐《なつかし》さはどんなでしょう。
しかし、ここで私は初恋、片おもい、恋の愚痴《ぐち》を言うのではありません。
……この凄《すご》い吹雪の夜《よ》、不思議な事に出あいました、そのお話をするのであります。
四
その時は、四畳半《かこい》ではありません。が、炉を切った茶の室《ま》に通されました。
時に、先客が一人ありまして炉の右に居ました。気高いばかり品のいい年とった尼さんです。失礼ながら、この先客は邪魔でした。それがために、いとど拙《つたな》い口の、千の一つも、何にも、ものが言われなか
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