のが、そのまま雪の丘のようになる……それが、右になり、左になり、横に積り、縦に敷きます。その行く処、飛ぶ処へ、人のからだを持って行って、仰向《あおむ》けにも、俯向《うつむか》せにもたたきつけるのです。
――雪難之碑。――峰の尖《とが》ったような、そこの大木の杉の梢《こずえ》を、睫毛《まつげ》にのせて倒れました。私は雪に埋れて行《ゆ》く……身動きも出来ません。くいしばっても、閉じても、目口に浸《し》む粉雪《こゆき》を、しかし紫陽花《あじさい》の青い花片《はなびら》を吸うように思いました。
――「菖蒲《あやめ》が咲きます。」――
蛍が飛ぶ。
私はお米さんの、清く暖《あたたか》き膚《はだ》を思いながら、雪にむせんで叫びました。
「魔が妨げる、天狗《てんぐ》の業《わざ》だ――あの、尼さんか、怪しい隠士か。」
[#地から1字上げ]大正十(一九二一)年四月
底本:「泉鏡花集成7」ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年12月4日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十一卷」岩波書店
1941(昭和16)年9月30日
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2005年11月1日作成
青空文庫作成ファイル:
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