》は此處《こゝ》から四十|里《り》餘《あま》り隔《へだ》たつた、おなじ雪深《ゆきぶか》い國《くに》に生《うま》れたので、恁《か》うした夜道《よみち》を、十|町《ちやう》や十五|町《ちやう》歩行《ある》くのは何《なん》でもないと思《おも》つたのであります。
 が、其《そ》の凄《すさま》じさと言《い》つたら、まるで眞白《まつしろ》な、冷《つめた》い、粉《こな》の大波《おほなみ》を泳《およ》ぐやうで、風《かぜ》は荒海《あらうみ》に齊《ひと》しく、ぐわう/\と呻《うな》つて、地《ち》――と云《い》つても五六|尺《しやく》積《つも》つた雪《ゆき》を、押搖《おしゆす》つて狂《くる》ふのです。
「あの時分《じぶん》は、脇《わき》の下《した》に羽《はね》でも生《は》えて居《ゐ》たんだらう。屹《きつ》と然《さ》うに違《ちが》ひない。身輕《みがる》に雪《ゆき》の上《うへ》へ乘《の》つて飛《と》べるやうに。」
 ……でなくつては、と呼吸《いき》も吐《つ》けない中《うち》で思《おも》ひました。
 九歳《こゝのつ》十歳《とを》ばかりの其《そ》の小兒《こども》は、雪下駄《ゆきげた》、竹草履《たけざうり》、それは雪
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