訊《たづ》ねました。
「三碧《さんぺき》なう。」
と尼《あま》さんが言《い》ひました。
「貴女《あなた》は?」
「私《わたし》は一《ひと》つ上《うへ》……」
「四緑《しろく》なう。」
と尼《あま》さんが又《また》言《い》ひました。
――略《りやく》して申《まを》すのですが、其處《そこ》へ案内《あんない》もなく、づか/\と入《はひ》つて來《き》て、立状《たちざま》に一寸《ちよつと》私《わたし》を尻目《しりめ》にかけて、爐《ろ》の左《ひだり》の座《ざ》についた一|人《にん》があります――山伏《やまぶし》か、隱者《いんじや》か、と思《おも》ふ風采《ふうさい》で、ものの鷹揚《おうやう》な、惡《わる》く言《い》へば傲慢《がうまん》な、下手《へた》が畫《ゑ》に描《か》いた、奧州《あうしう》めぐりの水戸《みと》の黄門《くわうもん》と言《い》つた、鼻《はな》の隆《たか》い、髯《ひげ》の白《しろ》い、早《は》や七十ばかりの老人《らうじん》でした。
「此《これ》は關《せき》さんか。」
と、いきなり言《い》ひます。私《わたし》は吃驚《びつくり》しました。
お米《よね》さんが、しなよく頷《うなづ》きますと、
「左樣《さやう》か。」
と言《い》つて、此《これ》から滔々《たふ/\》と辯《べん》じ出《だ》した。其《そ》の辯《べん》ずるのが都會《とくわい》に於《お》ける私《わたし》ども、なかま、なかまと申《まを》して私《わたし》などは、ものの數《かず》でもないのですが、立派《りつぱ》な、畫《ゑ》の畫伯方《せんせいがた》の名《な》を呼《よ》んで、片端《かたつぱし》から、奴《やつ》がと苦《にが》り、彼《あれ》め、と蔑《さげす》み、小僧《こぞう》、と呵々《から/\》と笑《わら》ひます。
私《わたし》は五六|尺《しやく》飛退《とびさが》つて叩頭《おじぎ》をしました。
「汽車《きしや》の時間《じかん》がございますから。」
お米《よね》さんが、送《おく》つて出《で》ました。花菜《はなな》の中《なか》を半《なかば》の時《とき》、私《わたし》は香《か》に咽《むせ》んで、涙《なみだ》ぐんだ聲《こゑ》して、
「お寂《さび》しくおいでなさいませう。」
と精一杯《せいいつぱい》に言《い》つたのです。
「いゝえ、兄《あに》が一緒《いつしよ》ですから……でも大雪《おほゆき》の夜《よ》なぞは、町《まち》から道
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