《さか》える。
聲《こゑ》の中《なか》に噫《あツ》と一聲《ひとこゑ》、床几《しやうぎ》から轉《ころ》げ落《お》ちさう、脾腹《ひばら》を抱《かゝ》へて呻《うめ》いたのは、民子《たみこ》が供《とも》の與曾平親仁《よそべいおやぢ》。
這《こ》は便《びん》なし、心《しん》を冷《ひや》した老《おい》の癪《しやく》、其《そ》の惱《なやみ》輕《かろ》からず。
一體《いつたい》誰彼《たれかれ》といふ中《うち》に、さし急《いそ》いだ旅《たび》なれば、註文《ちうもん》は間《ま》に合《あは》ず、殊《こと》に少《わか》い婦人《をんな》なり。うつかりしたものも連《つ》れられねば、供《とも》さして遣《や》られもせぬ。與曾平《よそべい》は、三十年餘《みそとせあま》りも律儀《りちぎ》に事《つか》へて、飼殺《かひごろし》のやうにして置《お》く者《もの》の氣質《きだて》は知《し》れたり、今《いま》の世《よ》の道中《だうちう》に、雲助《くもすけ》、白波《しらなみ》の恐《おそ》れなんど、あるべくも思《おも》はれねば、力《ちから》はなくても怪《け》しうはあらず、最《もつと》も便《たより》よきは年《とし》こそ取《と》つたれ
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