》に起伏《おきふし》するから、雪《ゆき》を驚《おどろ》くやうな者《もの》は忘《わす》れても無《な》い土地柄《とちがら》ながら、今年《ことし》は意外《いぐわい》に早《はや》い上《うへ》に、今時《いまどき》恁《か》くまで積《つも》るべしとは、七八十になつた老人《らうじん》も思《おも》ひ懸《が》けないのであつたと謂《い》ふから。
 來《く》る道《みち》でも、村《むら》を拔《ぬ》けて、藪《やぶ》の前《まへ》など通《とほ》る折《をり》は、兩側《りやうがは》から倒《たふ》れ伏《ふ》して、竹《たけ》も三|尺《じやく》の雪《ゆき》を被《かつ》いで、或《あるひ》は五|間《けん》、或《あるひ》は十|間《けん》、恰《あたか》も眞綿《まわた》の隧道《トンネル》のやうであつたを、手《て》で拂《はら》ひ笠《かさ》で拂《はら》ひ、辛《から》うじて腕車《くるま》を潛《くゞ》らしたれば、網《あみ》の目《め》にかゝつたやうに、彼方《あなた》此方《こなた》を、雀《すゞめ》がばら/\、洞《ほら》に蝙蝠《かうもり》の居《ゐ》るやうだつた、と車夫同士《くるまやどうし》語《かた》りなどして、しばらく澁茶《しぶちや》に市《いち》が榮
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