んち》唯《たゞ》一白《いつぱく》。
 不意《ふい》に積《つも》つた雪《ゆき》なれば、雪車《そり》と申《まを》しても間《ま》に合《あは》ず、ともかくもお車《くるま》を。帳場《ちやうば》から此處《こゝ》へ參《まゐ》る内《うち》も、此《こ》の通《とほ》りの大汗《おほあせ》と、四人《よつたり》の車夫《しやふ》は口《くち》を揃《そろ》へ、精一杯《せいいつぱい》、後押《あとおし》で、お供《とも》はいたして見《み》まするけれども、前途《さき》のお請合《うけあひ》はいたされず。何《なに》はしかれ車《くるま》の齒《は》の埋《うづ》まりますまで、遣《や》るとしませう。其上《そのうへ》は、三|人《にん》がかり五|人《にん》がかり、三井寺《みゐでら》の鐘《かね》をかつぐ力《ちから》づくでは、とても一寸《いつすん》も動《うご》きはしませぬ。お約束《やくそく》なれば當《たう》柳屋《やなぎや》の顏立《かほだて》に參《まゐ》つたまで、と、しり込《ごみ》すること一方《ひとかた》ならず。唯《たゞ》急《いそ》ぎに急《いそ》がれて、こゝに心《こゝろ》なき主從《しうじう》よりも、御機嫌《ごきげん》ようと門《かど》に立《た》つて
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