》れたかと思《おも》ふ氣勢《けはひ》がして、風《かぜ》さへ颯《さつ》と吹《ふ》き添《そ》つた。
 一《いち》の谷《たに》、二《に》の谷《たに》、三《さん》の谷《たに》、四《し》の谷《たに》かけて、山々《やま/\》峰々《みね/\》縱横《じうわう》に、荒《あ》れに荒《あ》るゝが手《て》に取《と》るやう、大波《おほなみ》の寄《よ》せては返《かへ》すに齊《ひと》しく、此《こ》の一夜《いちや》に北國空《ほくこくぞら》にあらゆる雪《ゆき》を、震《ふる》ひ落《おと》すこと、凄《すさ》まじい。
 民子《たみこ》は一炊《いつすゐ》の夢《ゆめ》も結《むす》ばず。あけ方《がた》に風《かぜ》は凪《な》いだ。
 昨夜《ゆうべ》雇《やと》つた腕車《くるま》が二|臺《だい》、雪《ゆき》の門《かど》を叩《たゝ》いたので、主從《しうじう》は、朝餉《あさげ》の支度《したく》も※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そこ/\》に、身《み》ごしらへして、戸外《おもて》に出《で》ると、東雲《しのゝめ》の色《いろ》とも分《わ》かず黄昏《たそがれ》の空《そら》とも見《み》えず、溟々《めい/\》濛々《もう/\》として、天地《て
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