たれば、頂《いたゞき》の雲《くも》眉《まゆ》を蔽《おほ》うて、道《みち》のほど五|里《り》あまり、武生《たけふ》の宿《しゆく》に着《つ》いた頃《ころ》、日《ひ》はとつぷりと暮《く》れ果《は》てた。
長旅《ながたび》は抱《かゝ》へたり、前《まへ》に峠《たうげ》を望《のぞ》んだれば、夜《よ》を籠《こ》めてなど思《おも》ひも寄《よ》らず、柳屋《やなぎや》といふに宿《やど》を取《と》る。
路《みち》すがら手《て》も足《あし》も冷《ひ》え凍《こほ》り、火鉢《ひばち》の上《うへ》へ突伏《つゝぷ》しても、身《み》ぶるひやまぬ寒《さむ》さであつたが、
枕《まくら》に就《つ》いて初夜《しよや》過《す》ぐる頃《ころ》ほひより、少《すこ》し氣候《きこう》がゆるんだと思《おも》ふと、凡《およ》そ手掌《てのひら》ほどあらうといふ、俗《ぞく》に牡丹《ぼたん》となづくる雪《ゆき》が、しと/\と果《はて》しもあらず降出《ふりだ》して、夜中頃《よなかごろ》には武生《たけふ》の町《まち》を笠《かさ》のやうに押被《おつかぶ》せた、御嶽《おんたけ》といふ一座《いちざ》の峰《みね》、根《ね》こそぎ一搖《ひとゆ》れ、搖《ゆ
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