怪我《けが》はなかつたが、落込《おちこ》んだのは炭燒《すみやき》の小屋《こや》の中《なか》。
 五助《ごすけ》。
 權九郎《ごんくらう》。
 といふ、兩名《りやうめい》の炭燒《すみやき》が、同一《おなじ》雪籠《ゆきごめ》に會《あ》つて封《ふう》じ込《こ》められたやうになり、二日《ふつか》三日《みつか》は貯蓄《たくはへ》もあつたが、四日目《よつかめ》から、粟《あは》一粒《ひとつぶ》も口《くち》にしないで、熊《くま》の如《ごと》き荒漢等《あらをのこら》、山狗《やまいぬ》かとばかり痩《や》せ衰《おとろ》へ、目《め》を光《ひか》らせて、舌《した》を噛《か》んで、背中合《せなかあは》せに倒《たふ》れたまゝ、唸《うめ》く聲《こゑ》さへ幽《かすか》な處《ところ》、何《なに》、人間《にんげん》なりとて容赦《ようしや》すべき。
 帶《おび》を解《と》き、衣《きぬ》を剥《は》ぎ、板戸《いたど》の上《うへ》に縛《いまし》めた、其《そ》のありさまは、こゝに謂《い》ふまい。立處《たちどころ》其《そ》の手足《てあし》を炙《あぶ》るべく、炎々《えん/\》たる炭火《すみび》を熾《おこ》して、やがて、猛獸《まうじう》を
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