これは獵師《れふし》も憐《あはれ》んで、生命《いのち》を取《と》らず、稗《ひえ》、粟《あは》を與《あた》へて養《やしな》ふ習《ならひ》と、仔細《しさい》を聞《き》けば、所謂《いわゆる》窮鳥《きうてう》懷《ふところ》に入《い》つたるもの。
 翌日《あくるひ》も降《ふ》り止《や》まず、民子《たみこ》は心《こゝろ》も心《こゝろ》ならねど、神佛《かみほとけ》とも思《おも》はるゝ老《おい》の言《ことば》に逆《さか》らはず、二日《ふつか》三日《みつか》は宿《やど》を重《かさ》ねた。
 其夜《そのよ》の雁《かり》も立去《たちさ》らず、餌《ゑ》にかはれた飼鳥《かひどり》のやう、よくなつき、分《わ》けて民子《たみこ》に慕《した》ひ寄《よ》つて、膳《ぜん》の傍《かたはら》に羽《はね》を休《やす》めるやうになると、はじめに生命《いのち》がけ恐《おそろ》しく思《おも》ひしだけ、可愛《かはい》さは一入《ひとしほ》なり。つれ/″\には名《な》を呼《よ》んで、翼《つばさ》を撫《な》でもし、膝《ひざ》に抱《だ》きもし、頬《ほゝ》もあて、夜《よる》は衾《ふすま》に懷《ふところ》を開《ひら》いて、暖《あたゝか》い玉《たま
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