ことがあらうも知《し》れずと、目《め》を瞑《ねむ》つて、行燈《あんどう》をうしろに差置《さしお》き、わなゝき/\柄杓《ひしやく》を取《と》つて、埋《う》もれた雪《ゆき》を拂《はら》ひながら、カチリとあたる水《みづ》を灌《そゝ》いで、投《な》げるやうに放《はな》したトタン、颯《さつ》とばかり雪《ゆき》をまいて、ばつさり飛込《とびこ》んだ一個《いつこ》の怪物《くわいぶつ》。
民子《たみこ》は思《おも》はずあツといつた。
夫婦《ふうふ》はこれに刎起《はねお》きたが、左右《さいう》から民子《たみこ》を圍《かこ》つて、三人《さんにん》六《むつ》の目《め》を注《そゝ》ぐと、小暗《をぐら》き方《かた》に蹲《うづくま》つたのは、何《なに》ものかこれ唯《たゞ》一|羽《は》の雁《かり》なのである。
老人《らうじん》は口《くち》をあいて笑《わら》ひ、いや珍《めづら》しくもない、まゝあること、俄《にはか》の雪《ゆき》に降籠《ふりこ》められると、朋《とも》に離《はな》れ、塒《ねぐら》に迷《まよ》ひ、行方《ゆくへ》を失《うしな》ひ、食《じき》に饑《う》ゑて、却《かへ》つて人《ひと》に懷《なづ》き寄《よ》る、
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