、民子《たみこ》は密《そつ》と起《お》き直《なほ》つたが、世話《せわ》になる身《み》の遠慮深《ゑんりよぶか》く、氣味《きみ》が惡《わる》いぐらゐには家《いへ》のぬし起《おこ》されず、其《その》まゝ突臥《つゝぷ》して居《ゐ》たけれども、さてあるべきにあらざれば、恐々《こは/″\》行燈《あんどう》を引提《ひつさ》げて、勝手《かつて》は寢《ね》しなに聞《き》いて置《お》いた、縁側《えんがは》について出《で》ようとすると、途絶《とだ》えて居《ゐ》たのが、ばたりと當《あた》ツて、二三|度《ど》續《つゞ》けさまにばさ、ばさ、ばさ。
はツと唾《つば》をのみ、胸《むね》を反《そら》して退《すさ》つたが、やがて思切《おもひき》つて用《よう》を達《た》して出《で》るまでは、まづ何事《なにごと》もなかつた處《ところ》。
手《て》を洗《あら》はうとする時《とき》は、民子《たみこ》は殺《ころ》されると思《おも》つたのである。
雨戸《あまど》を一|枚《まい》ツト開《あ》けると、直《たゞ》ちに、東西南北《とうざいなんぼく》へ五|里《り》十|里《り》の眞白《まつしろ》な山《やま》であるから。
如何《いか》なる
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