う》でないのはない。
呼吸《いき》を詰《つ》めて、なほ鈴《すゞ》のやうな瞳《ひとみ》を凝《こら》せば、薄暗《うすぐら》い行燈《あんどう》の灯《ひ》の外《ほか》、壁《かべ》も襖《ふすま》も天井《てんじやう》も暗《くらが》りでないものはなく、雪《ゆき》に眩《くる》めいた目《め》には一《ひと》しほで、ほのかに白《しろ》いは我《われ》とわが、俤《おもかげ》に立《た》つ頬《ほゝ》の邊《あたり》を、確乎《しつか》とおさへて枕《まくら》ながら幽《かすか》にわなゝく小指《こゆび》であつた。
あなわびし、うたてくもかゝる際《さい》に、小用《こよう》がたしたくなつたのである。
もし。ふるへ聲《ごゑ》で又《また》、
もし/\と、二聲《ふたこゑ》三聲《みこゑ》呼《よ》んで見《み》たが、目《め》ざとい老人《らうじん》も寐入《ねいり》ばな、分《わ》けて、罪《つみ》も屈託《くつたく》も、山《やま》も町《まち》も何《なん》にもないから、雪《ゆき》の夜《よ》に靜《しづ》まり返《かへ》つて一層《いつそう》寐心《ねごころ》の好《よ》ささうに、鼾《いびき》も聞《きこ》えずひツそりして居《ゐ》る。
堪《たま》りかねて
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