《め》ばかりぱち/\させて、鐘《かね》の音《ね》も聞《きこ》えぬのを、徒《いたづら》に指《ゆび》を折《を》る、寂々《しん/\》とした板戸《いたど》の外《そと》に、ばさりと物音《ものおと》。
民子《たみこ》は樹《き》を辷《すべ》つた雪《ゆき》のかたまりであらうと思《おも》つた。
しばらくして又《また》ばさりと障《さは》つた、恁《かゝ》る時《とき》、恁《かゝ》る山家《やまが》に雪《ゆき》の夜半《よは》、此《こ》の音《おと》に恐氣《おぢけ》だつた、婦人氣《をんなぎ》はどんなであらう。
富藏《とみざう》は疑《うたが》はないでも、老夫婦《らうふうふ》の心《こゝろ》は分《わか》つて居《ゐ》ても、孤家《ひとつや》である、この孤家《ひとつや》なる言《ことば》は、昔語《むかしがたり》にも、お伽話《とぎばなし》にも、淨瑠璃《じやうるり》にも、ものの本《ほん》にも、年紀《とし》今年《ことし》二十《はたち》になるまで、民子《たみこ》の耳《みゝ》に入《はひ》つた響《ひゞ》きに、一《ひと》ツとして、悲慘《ひさん》悽愴《せいさう》の趣《おもむき》を今《いま》爰《こゝ》に囁《さゝや》き告《つ》ぐる、材料《ざいれ
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