んたうさま》といや降《ふ》ることは/\。
あとに頼《たの》むは老人夫婦《らうじんふうふ》、之《これ》が又《また》、補陀落山《ふだらくさん》から假《かり》にこゝへ、庵《いほり》を結《むす》んで、南無《なむ》大悲《だいひ》民子《たみこ》のために觀世音《くわんぜおん》。
其《そ》の情《なさけ》で、饑《う》ゑず、凍《こゞ》えず、然《しか》も安心《あんしん》して寢床《ねどこ》に入《はひ》ることが出來《でき》た。
佗《わび》しさは、食《た》べるものも、着《き》るものも、こゝに斷《ことわ》るまでもない、薄《うす》い蒲團《ふとん》も、眞心《まごころ》には暖《あたゝか》く、殊《こと》に些《ちと》は便《たよ》りにならうと、故《わざ》と佛間《ぶつま》の佛壇《ぶつだん》の前《まへ》に、枕《まくら》を置《お》いてくれたのである。
心靜《こゝろしづか》に枕《まくら》には就《つ》いたが、民子《たみこ》は何《ど》うして眠《ねむ》られよう、晝《ひる》の疲勞《つかれ》を覺《おぼ》ゆるにつけても、思《おも》ひ遣《や》らるゝ後《のち》の旅《たび》。
更《ふ》け行《ゆ》く閨《ねや》に聲《こゑ》もなく、凉《すゞ》しい目
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