》に一《ひと》つも、もし、然《さ》やうな目《め》に逢《あ》ひますると、媽々《かゝあ》や小兒《こども》が※[#「月+咢」、第3水準1−90−51]《あご》を釣《つ》らねばなりませぬで、此《こ》の上《うへ》お供《とも》は出來《でき》かねまする。お別《わか》れといたしまして、其處《そこ》らの茶店《ちやみせ》をあけさせて、茶碗酒《ちやわんざけ》をぎうとあふり、其《そ》の勢《いきほひ》で、暗雲《やみくも》に、とんぼを切《き》つて轉《ころ》げるまでも、今日《けふ》の内《うち》に麓《ふもと》まで歸《かへ》ります、とこれから雪《ゆき》の伏家《ふせや》を叩《たゝ》くと、老人夫婦《らうじんふうふ》が出迎《いでむか》へて、富藏《とみざう》に仔細《しさい》を聞《き》くと、お可哀相《かはいさう》のいひつゞけ。
 行先《ゆくさき》が案《あん》じられて、我《われ》にもあらずしよんぼりと、門《と》に彳《たゝず》んで入《はひ》りもやらぬ、媚《なまめか》しい最明寺殿《さいみやうじどの》を、手《て》を採《と》つて招《せう》じ入《い》れて、舁据《かきす》ゑるやうに圍爐裏《ゐろり》の前《まへ》。
 お前《まへ》まあ些《ちつ》と
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