々《いよ/\》聳《そび》えて、見渡《みわた》せば、見渡《みわた》せば、此處《こゝ》ばかり日《ひ》の本《もと》を、雪《ゆき》が封《ふう》ずる光景《ありさま》かな。
 幸《さいはひ》に風《かぜ》が無《な》く、雪路《ゆきみち》に譬《たと》ひ山中《さんちう》でも、然《さ》までには寒《さむ》くない、踏《ふ》みしめるに力《ちから》の入《い》るだけ、却《かへ》つて汗《あせ》するばかりであつたが、裾《すそ》も袂《たもと》も硬《こは》ばるやうに、ぞつと寒《さむ》さが身《み》に迫《せま》ると、山々《やま/\》の影《かげ》がさして、忽《たちま》ち暮《くれ》なむとする景色《けしき》。あはよく峠《たうげ》に戸《と》を鎖《とざ》した一|軒《けん》の山家《やまが》の軒《のき》に辿《たど》り着《つ》いた。
 さて奧樣《おくさま》、目當《めあて》にいたして參《まゐ》つたは此《こ》の小家《こいへ》、忰《せがれ》は武生《たけふ》に勞働《はたらき》に行《い》つて居《を》り、留守《るす》は山《やま》の主《ぬし》のやうな、爺《ぢい》と婆《ばゞ》二人《ふたり》ぐらし、此處《こゝ》にお泊《とま》りとなさいまし、戸《と》を叩《たゝ》い
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