其《そ》の爪先《つまさき》は白《しろ》うなる。
下坂《くだりざか》は、動《うごき》が取《と》れると、一|名《めい》の車夫《しやふ》は空車《から》を曳《ひ》いて、直《す》ぐに引返《ひつかへ》す事《こと》になり、梶棒《かぢぼう》を取《と》つて居《ゐ》たのが、旅鞄《たびかばん》を一個《ひとつ》背負《しよ》つて、之《これ》が路案内《みちあんない》で峠《たうげ》まで供《とも》をすることになつた。
其《そ》の鐵《てつ》の如《ごと》き健脚《けんきやく》も、雪《ゆき》を踏《ふ》んではとぼ/\しながら、前《まへ》へ立《た》つて足《あし》あとを印《いん》して上《のぼ》る、民子《たみこ》はあとから傍目《わきめ》も觸《ふ》らず、攀《よ》ぢ上《のぼ》る心細《こゝろぼそ》さ。
千山《せんざん》萬岳《ばんがく》疊々《てふ/″\》と、北《きた》に走《はし》り、西《にし》に分《わか》れ、南《みなみ》より迫《せま》り、東《ひがし》より襲《おそ》ふ四圍《しゐ》たゞ高《たか》き白妙《しろたへ》なり。
さるほどに、山《やま》又《また》山《やま》、上《のぼ》れば峰《みね》は益《ます/\》累《かさな》り、頂《いたゞき》は愈
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