》り、民子《たみこ》は取縋《とりすが》るやうにして、介抱《かいほう》するにも、藥《くすり》にも、ありあはせの熊膽《くまのゐ》位《くらゐ》、其《それ》でも心《こゝろ》は通《つう》じたか、少《すこ》しは落着《おちつ》いたから一刻《いつこく》も疾《はや》くと、再《ふたゝ》び腕車《くるま》を立《た》てようとすれば、泥除《どろよけ》に噛《かじ》りつくまでもなく、與曾平《よそべい》は腰《こし》を折《を》つて、礑《はた》と倒《たふ》れて、顏《かほ》の色《いろ》も次第《しだい》に變《かは》り、之《これ》では却《かへ》つて足手絡《あしてまと》ひ、一式《いつしき》の御恩《ごおん》報《はう》じ、此《こ》のお供《とも》をと想《おも》ひましたに、最《も》う叶《かな》はぬ、皆《みんな》で首《くび》を縊《し》めてくれ、奧樣《おくさま》私《わし》を刺殺《さしころ》して、お心懸《こゝろがかり》のないやうに願《ねが》ひまする。おのれやれ、死《し》んで鬼《おに》となり、無事《ぶじ》に道中《だうちう》はさせませう、魂《たましひ》が附添《つきそ》つて、と血狂《ちくる》ふばかりに急《あせ》るほど、弱《よわ》るは老《おい》の身體《
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