雪の翼
泉鏡花
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)柏崎海軍少尉《かしはざきかいぐんせうゐ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|羽《は》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々
/\:二倍の踊り字(「く」を縱に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)つか/\と
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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柏崎海軍少尉《かしはざきかいぐんせうゐ》の夫人《ふじん》に、民子《たみこ》といつて、一昨年《いつさくねん》故郷《ふるさと》なる、福井《ふくゐ》で結婚《けつこん》の式《しき》をあげて、佐世保《させぼ》に移住《うつりす》んだのが、今度《こんど》少尉《せうゐ》が出征《しゆつせい》に就《つ》き、親里《おやざと》の福井《ふくゐ》に歸《かへ》り、神佛《しんぶつ》を祈《いの》り、影膳《かげぜん》据《す》ゑつつ座《ざ》にある如《ごと》く、家《いへ》を守《まも》つて居《ゐ》るのがあつた。
旅順《りよじゆん》の吉報《きつぱう》傳《つた》はるとともに幾干《いくばく》の猛將《まうしやう》勇士《ゆうし》、或《あるひ》は士卒《しそつ》――或《あるひ》は傷《きず》つき骨《ほね》も皮《かは》も散々《ちり/″\》に、影《かげ》も留《とゞ》めぬさへある中《なか》に夫《をつと》は天晴《あつぱれ》の功名《こうみやう》して、唯《たゞ》纔《わづか》に左《ひだり》の手《て》に微傷《かすりきず》を受《う》けたばかりと聞《き》いた時《とき》、且《か》つ其《そ》の乘組《のりく》んだ艦《ふね》の帆柱《ほばしら》に、夕陽《せきやう》の光《ひかり》を浴《あ》びて、一|羽《は》雪《ゆき》の如《ごと》き鷹《たか》の來《きた》り留《とま》つた報《はう》を受《う》け取《と》つた時《とき》、連添《つれそ》ふ身《み》の民子《たみこ》は如何《いか》に感《かん》じたらう。あはれ新婚《しんこん》の式《しき》を擧《あ》げて、一年《ひとゝせ》の衾《ふすま》暖《あたゝ》かならず、戰地《せんち》に向《むか》つて出立《いでた》つた折《をり》には、忍《しの》んで泣《な》かなかつたのも、嬉涙《うれしなみだ》に暮《く》れたのであつた。
あゝ、其《そ》のよ
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