分りましたか、上杉さん、ね、ミリヤアド。」
「上杉さん。」
極めて低けれど忘れぬ声なり。
「こんなになりました。」
とややありて切なげにいいし一句にさえ、呼吸《いき》は三たびぞ途絶えたる。昼中の日影さして、障子にすきて見ゆるまで、空|蒼《あお》く晴れたればこそかくてあれ、暗くならば影となりて消えや失《う》せむと、見る目も危うく窶《やつ》れしかな。
「切のうござんすか。」
ミリヤアドは夢見る顔なり。
「耳が少し遠くなっていらっしゃいますから、そのおつもりで、新さん。」
「切のうござんすか。」
頷《うなず》く状《さま》なりき。
「まだ可いんですよ。晩方になって寒くなると、あわれにおなんなさいます。それに熱が高くなりますからまるで、現《うつつ》。」
と低声《こごえ》にいう。かかるものをいかなる言《ことば》もて慰むべき。果《はて》は怨《うら》めしくもなるに、心激して、
「どうするんです、ミリヤアド、もうそんなでいてどうするの。」
声高にいいしを傍《かたわら》より目もて叱られて、急に、
「何ともありませんよ、何、もう、いまによくなります。」
いいなおしたる接穂《つぎほ》なさ。面《お
前へ
次へ
全20ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング