はわが襟を掻《か》き合せぬ。さきより踞《つくば》いたる頭《かしら》次第に垂れて、芝生に片手つかんずまで、打沈みたりし女の、この時ようよう顔をばあげ、いま更にまた瞳を定めて、他のこと思いいる、わが顔、瞻《みまも》るよと覚えしが、しめやかなるものいいしたり。
「可《よ》うござんす。千ちゃん、私たちの心とは何かまるで変ってるようで、お言葉は腑《ふ》に落ちないけれど、さっきもあんなにゃア言ったものの、いまここへ、尼様がおいで遊ばせば、やっぱりつむりが下るんです。尼様は尊く思いますから、何でも分った仔細《しさい》があって、あの方の遊ばす事だ。まあ、あとでどうなろうと、世間の人がどうであろうと、こんな処はとても私たちの出る幕じゃあない。尼様のお計らいだ、どうにか形《かた》のつくことでござんしょうと、そうまあねえ、千ちゃん、そう思って帰ります。
 何だか私もぼんやりしたようで、気が変になったようで、分らないけれど、どうもこうした御様子じゃあ、千ちゃん、お前様《まえさん》と、御新造様《ごしんぞさん》と一ツお床でおよったからって、別に仔細はないように、ま私は思います。見りゃお前様もお浮きでなし、あっちの
前へ 次へ
全31ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング