が、婦人《おんな》の身でどうして来た、……さて降りたらば何とする? ずんずん行《ゆ》けば何とする?
すべてかかる事に手間|隙《ひま》取って、とこうするのが魔が魅《さ》すのである。――構わず行《ゆ》こう。
「何だ。」
谿間《たにま》の百合の大輪《おおりん》がほのめくを、心は残るが見棄てる気構え。踵《くびす》を廻らし、猛然と飛入るがごとく、葎《むぐら》の中に躍込んだ。ざ、ざ、ざらざらと雲が乱れる。
山路に草を分ける心持は、水練を得たものが千尋の淵《ふち》の底を探るにも似ていよう。どっと滝を浴びたように感じながら、ほとんど盲蛇《めくらへび》でまっしぐらに突いて出ると、颯《さっ》と開けた一場の広場。前面にぬっくり立った峯の方へなぞえに高い、が、その峰は倶利伽羅の山続きではない。越中の立山が日も月も呑んで真暗《まっくら》に聳《そび》えたのである。ちょうど広場とその頂との境に、一条《ひとすじ》濃い靄《もや》が懸《かか》った、靄の下に、九十九谷《つくもだに》に介《はさ》まった里と、村と、神通《じんつう》、射水《いみず》の二|大川《だいせん》と、富山の市《まち》が包まるる。
さればこそ思い違え
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