ね、鳩尾《みずおち》の下にも一ヶ所、めらめらと炎の痣。
 やがて、むっくりと起上って、身を飜した半身雪の、褄《つま》を乱して、手をつくと、袖が下《さが》って、裳《もすそ》を捌《さば》いて、四ツ這《ば》いになった、背中にも一ツ、赤斑《あかまだら》のある……その姿は……何とも言えぬ、女の狗《いぬ》。」
「ああ!」
「驚く拍子に、私が物音を立てたらしい。貴婦人が、衝《つ》と立つと、蚊帳越にパッと燈《あかり》を……少《わか》い女は這《は》ったままで掻消《かきけ》すよう――よく一息に、ああ消えたと思う。貴婦人の背の高かったこと、蚊帳の天井から真白な顔が突抜けて出たようで――いまだに気味の悪さが俤立《おもかげだ》ってちらちらします。
 あとは、真暗《まっくら》、蚊帳は漆《うるし》のようになった。」

       三十二

「何が何でも、そこに立っちゃいられんから、這《は》ったか、摺《ず》ったか、弁別《わきまえ》はない、凸凹《でこぼこ》の土間をよろよろで別亭《はなれ》の方へ引返すと……
 また、まあどうです。
 あの、雨戸がはずれて、月明りが靄《もや》ながら射込《さしこ》んでいる、折曲った縁側は、
前へ 次へ
全139ページ中114ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング