、ずッと私の前へ直しました。酒なんですね。
(手が着いたって、姉《ねえ》さん、食べかけではないわ、お酒ですもの。)
 綺麗な歯をちらりと見せたもんですね。その時、」

       二十九

「貴婦人も莞爾《にっこり》して、
(ま、そうね、私はちっとも頂かないものだから。)
(あら人聞きが悪いわ。私ばかりお酒を飲むようで。)
(だってそれに違いないんですもの、ほんとに困った人だこと。)
 ちょいと躾《たしな》めるような目をした。二人で仲よく争いながら、硝子盃《コップ》を取って指しました。
(さあ、お一つ召上れな、お綾さんの食べかけではないそうですから……しかしお甘いんで不可《いけ》ませんか。)
 と貴婦人が言った時は、もう少《わか》い方が壜《びん》を持って待ってるんでしょう。手首へ掛けて蒼《あお》い酒に、颯《さっ》と月影が射《さ》したんです。
 毒虫を絞った汁にもせよ、人生れて男にして、これは辞すべきでない。
 引掛《ひっか》けて受けました。
 薫《かおり》と酔《よい》が、ほんのりと五臓六腑《ごぞうろっぷ》へ染渡《しみわた》る。ところで大胆《だいたん》にその盃《さかずき》を、少《わか》
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