救うためか。
と思うと、どうして、これも敵方の女将軍《じょしょうぐん》。」
「女将軍?ええ、山賊の巣窟《そうくつ》かな。」
と山伏はきょとんとする。
十九
「後で聞きますと、それが山へ来る約束の日だったので、私の膝に居る女が、心待《こころまち》に古家《ふるいえ》の門口《かどぐち》まで出た処へ、貴下《あなた》が、例の異形で御通行になったのだそうです。
その円髷《まげ》に結《い》った姉《あね》の方は、竹の橋から上ったのだと言いました。つい一条路《ひとすじみち》の、あの上りを、時刻も大抵同じくらい、貴下は途中でお逢いになりはしませんでしたか。」
先達は怪訝《けげん》な顔して、
「されば、……ところで、その婆さんはどうしましたな、坂下に立ったのを御覧になった時は、傍《そば》についていたというお話続きの、」
とかえってたずねる。
「それは峠までは来ませんでした。風呂敷包みがあったので、途中見懸けたのを、頼んで、そこまで持たして来たのだそうで。……やっぱりその婆さんは、路傍《みちばた》に二人で立っていた一人らしく思われます。その居た処は、貴下にお目にかかりました、あの縄張をした処、……」
「さよう。」
「あすこよりは、ずっと麓《ふもと》の方です。」
「すると、そのどちらかは分りませんが、貴辺《あなた》に分れて下山の途中で、婆さん一人にだけは逢いました。成程――承れば、何か手に包んだものを持っていた様子で――大方その従伴《とも》をして登った方のでありましょうな。
それにしては、お話しのその円髷《まげ》に結《い》った婦人に、一条路《ひとすじみち》出会わねばならん筈《はず》、……何か、崖の裏、立樹の蔭へでも姿を隠しましたかな。いずれそれ人目を忍ぶという条《すじ》で、」
「きっとそうでしょう。金沢から汽車で来たんだそうですから。」
先達は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、
「金沢から、」
「ですから汽車へいらっしゃる、貴下と逢違う筈はありません。」
「旅をかけて働きますかな。」
「ええ、」
「いや、盗賊《どろぼう》も便利になった。汽車に乗って横行じゃ。倶利伽羅峠に立籠《たてこも》って――御時節がら怪《け》しからん……いずれその風呂敷包みも、たんまりいたした金目のものでございましょうで。」
黙った三造は、しばらくして、
「お先達
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