れられん、朧夜《おぼろよ》にはそこぞと思う小路々々を※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》い※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]い日を重ねて、青葉に移るのが、酔のさめ際のように心寂しくってならなかった――人は二度とも、美しい通魔《とおりま》を見たんだ、と言う……私もあるいはそうかと思った。)
貴婦人が聞澄まして、
(二度目のは引越した処でしょう!)
と少《わか》い人に言うんです。
(物干で、花見をしたり、藪《やぶ》の中を歩行《ある》いたり、やっぱり、皆《みんな》こういう身体《からだ》になる前兆でしょう。よく貴下《あなた》、お胸に留めて下さいました。姉さん、私もう一度緋色の帯がしめたいわ。)
と、はらはらと落涙して、
(お恥かしいが……)
――と続いて話した。――
で、途中介抱しながら、富山へ行って、その裁判長の家に落着く。医者では不可《いか》ん、加持祈祷《かじきとう》と、父親の方から我《が》を折ってお札、お水、護摩となると、元々そういう容体ですから、少しずつ治まって、痙攣《けいれん》も一日に二三度、それも大抵時刻が極《きま》って、途中不意に卒倒するような憂慮《きづかい》なし、二人で散歩などが出来るようになったそうです。
一日《あるひ》、巴旦杏《はたんきょう》の実の青々した二階の窓際で、涼しそうに、うとうと、一人が寝ると、一人も眠った。貴婦人は神通川の方を裾で、お綾の方は立山の方《かた》を枕で、互違いに、つい肱枕《ひじまくら》をしたんですね。
トントントン跫音《あしおと》がして、二階の梯子段《はしごだん》から顔を出した男がある。
お綾が起返ると、いつも病人が夢中で名を呼ぶ……内証では、その惚話《のろけ》を言う、何とか云う男なんです。
ずッと来て、裾から貴婦人の足を圧《おさ》えようとするから、ええ、不躾《ぶしつけ》な、姉《あね》を悩《なやま》す、病《やまい》の鬼と、床の間に、重代の黄金《こがね》づくりの長船《おさふね》が、邪気を払うといって飾ってあったのを、抜く手も見せず、颯《さっ》と真額《まびたい》へ斬付《きりつ》ける。天窓《あたま》がはっと二つに分れた、西瓜をさっくり切《や》ったよう。
処へ、背後《うしろ》の窓下の屋根を踏んで、
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