まち》を離《はな》れてから浪打際《なみうちぎは》まで、凡《およ》そ二百|歩《ほ》もあつた筈《はず》なのが、白砂《しらすな》に足《あし》を踏掛《ふみか》けたと思《おも》ふと、早《は》や爪先《つまさき》が冷《つめた》く浪《なみ》のさきに觸《ふ》れたので、晝間《ひるま》は鐵《てつ》の鍋《なべ》で煮上《にあ》げたやうな砂《すな》が、皆《みな》ずぶ/″\に濡《ぬ》れて、冷《ひやつ》こく、宛然《さながら》網《あみ》の下《した》を、水《みづ》が潛《くゞ》つて寄《よ》せ來《く》るやう、砂地《すなぢ》に立《た》つてても身體《からだ》が搖《ゆら》ぎさうに思《おも》はれて、不安心《ふあんしん》でならぬから、浪《なみ》が襲《おそ》ふとすた/\と後《あと》へ退《の》き、浪《なみ》が返《かへ》るとすた/\と前《まへ》へ進《すゝ》んで、砂《すな》の上《うへ》に唯一人《たゞひとり》やがて星《ほし》一《ひと》つない下《した》に、果《はて》のない蒼海《あをうみ》の浪《なみ》に、あはれ果敢《はかな》い、弱《よわ》い、力《ちから》のない、身體《からだ》單個《ひとつ》弄《もてあそ》ばれて、刎返《はねかへ》されて居《ゐ》るのだ、
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