ない、堪《たま》らない気がして、もはや! 横に倒れようかと思った。
処へ、荷車が一台、前方《むこう》から押寄せるが如くに動いて、来たのは頬被《ほおかぶり》をした百姓である。
これに夢が覚めたようになって、少し元気がつく。
曳《ひ》いて来たは空車《からぐるま》で、青菜《あおな》も、藁《わら》も乗って居はしなかったが、何故《なぜ》か、雪の下の朝市に行くのであろうと見て取ったので、なるほど、星の消えたのも、空が淀《よど》んで居るのも、夜明に間《ま》のない所為《せい》であろう。墓原《はかはら》へ出たのは十二時|過《すぎ》、それから、ああして、ああして、と此処《ここ》まで来《き》た間《あいだ》のことを心に繰返して、大分《だいぶん》の時間が経《た》ったから。
と思う内に、車は自分の前、ものの二三|間《げん》隔たる処から、左の山道《やまみち》の方へ曲った。雪の下へ行くには、来て、自分と摺《す》れ違って後方《うしろ》へ通り抜けねばならないのに、と怪《あやし》みながら見ると、ぼやけた色で、夜の色よりも少し白く見えた、車も、人も、山道《やまみち》の半《なかば》あたりでツイ目のさきにあるような、大き
前へ
次へ
全14ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング