があっても、私が申請けよう。さあ、しっかりとつかまれ。私が楯《たて》になって怪《あやし》いものの目から隠してやろう。ずっと寄れ、さあこの身体《からだ》につかまってその動悸《どうき》を鎮めるが可い。放すな。」と爽《さわや》かにいった言《ことば》につれ、声につれ、お米は震いつくばかり、人目に消えよと取縋った。
「婆さん、明《あかり》を。」
飛上るようにして、やがてお幾が捧げ出した灯《ともしび》の影に、と見れば、予言者はくるりと背後《うしろ》向になって、耳を傾けて、真鍮《しんちゅう》の耳掻を悠々とつかいながら、判事の言《ことば》を聞澄しているかのごとくであった。
「安心しな、姉さん、心に罪があっても大事はない。私が許す、小山由之助だ、大審院の判事が許して、その証拠に、盗《ぬすみ》をしたいと思ったお前と一所になろう。婆さん、媒妁人《なこうど》は頼んだよ。」
迷信の深い小山夫人は、その後永く鳥獣の肉と茶断《ちゃだち》をして、判事の無事を祈っている。蓋《けだ》し当時、夫婦を呪詛《じゅそ》するという捨台辞《すてぜりふ》を残して、我《わが》言かくのごとく違《たが》わじと、杖をもって土を打つこと三た
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