》の儀《ぎ》にあらず、實際《じつさい》の筍《たけのこ》なり。百々女木町《どゞめきまち》も字《じ》に似《に》ず音《おん》強《つよ》し。
 買物《かひもの》にゆきて買《か》ふ方《はう》が、(こんね)で、店《みせ》の返事《へんじ》が(やあ/\。)歸《かへ》る時《とき》、買《か》つた方《はう》で、有《あり》がたう存《ぞん》じます、は君子《くんし》なり。――ほめるのかい――いゝえ。
 地震《ぢしん》めつたになし。しかし、其《そ》のぐら/\と來《く》る時《とき》は、家々《いへ/\》に老若《らうにやく》男女《なんによ》、聲《こゑ》を立《た》てて、世《よ》なほし、世《よ》なほし、世《よ》なほしと唱《とな》ふ。何《なん》とも陰氣《いんき》にて薄氣味《うすきみ》惡《わる》し。雷《かみなり》の時《とき》、雷《かみなり》山《やま》へ行《ゆ》け、地震《ぢしん》は海《うみ》へ行《ゆ》けと唱《とな》ふ、たゞし地震《ぢしん》の時《とき》には唱《とな》へず。
 火事《くわじ》をみて、火事《くわじ》のことを、あゝ火事《くわじ》が行《ゆ》く、火事《くわじ》が行《ゆ》く、と叫《さけ》ぶなり。彌次馬《やじうま》が駈《か》けなが
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