としたるもの、拙《つたな》けれども殆《ほとん》ど實境《じつきやう》也《なり》。
 化《ば》かすのは狐《きつね》、化《ば》けるのは狸《たぬき》、貉《むじな》。狐《きつね》狸《たぬき》より貉《むじな》の化《ば》ける話《はなし》多《おほ》し。
 三冬《さんとう》を蟄《ちつ》すれば、天狗《てんぐ》恐《おそ》ろし。北海《ほくかい》の荒磯《あらいそ》、金石《かないは》、大野《おほの》の濱《はま》、轟々《ぐわう/\》と鳴《な》りとゞろく音《おと》、夜毎《よごと》襖《ふすま》に響《ひゞ》く。雪《ゆき》深《ふか》くふと寂寞《せきばく》たる時《とき》、不思議《ふしぎ》なる笛《ふえ》太鼓《たいこ》、鼓《つゞみ》の音《おと》あり、山颪《やまおろし》にのつてトトンヒユーときこゆるかとすれば、忽《たちま》ち颯《さつ》と遠《とほ》く成《な》る。天狗《てんぐ》のお囃子《はやし》と云《い》ふ。能樂《のうがく》の常《つね》に盛《さかん》なる國《くに》なればなるべし。本所《ほんじよ》の狸囃子《たぬきばやし》と、遠《とほ》き縁者《えんじや》と聞《き》く。
 豆《まめ》の餅《もち》、草餅《くさもち》、砂糖餅《さたうもち》
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