《ひねもす》終夜《よもすがら》降《ふ》り續《つゞ》くこと二日《ふつか》三日《みつか》、山陰《やまかげ》に小《ちひ》さな青《あを》い月《つき》の影《かげ》を見《み》る曉方《あけがた》、ぱら/\と初霰《はつあられ》。さて世《よ》が變《かは》つた樣《やう》に晴《は》れ上《あが》つて、晝《ひる》になると、寒《さむ》さが身《み》に沁《し》みて、市中《しちう》五萬軒《ごまんげん》、後馳《おくれば》せの分《ぶん》も、やゝ冬構《ふゆがま》へなし果《は》つる。やがて、とことはの闇《やみ》となり、雲《くも》は墨《すみ》の上《うへ》に漆《うるし》を重《かさ》ね、月《つき》も星《ほし》も包《つゝ》み果《は》てて、時々《とき/″\》風《かぜ》が荒《あ》れ立《た》つても、其《そ》の一片《いつぺん》の動《うご》くとも見《み》えず。恁《かく》て天《てん》に雪催《ゆきもよひ》が調《とゝの》ふと、矢玉《やだま》の音《おと》たゆる時《とき》なく、丑《うし》、寅《とら》、辰《たつ》、巳《み》、刻々《こく/\》に修羅礫《しゆらつぶて》を打《うち》かけて、霰々《あられ/\》、又《また》玉霰《たまあられ》。
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