煮込《にこ》み、山葵《わさび》を吸口《すひくち》にしたるもの。近頃《ちかごろ》頻々《ひんぴん》として金澤《かなざは》に旅行《りよかう》する人々《ひと/″\》、皆《みな》その調味《てうみ》を賞《しやう》す。
 蕪《かぶら》の鮨《すし》とて、鰤《ぶり》の甘鹽《あまじほ》を、蕪《かぶ》に挾《はさ》み、麹《かうぢ》に漬《つ》けて壓《お》しならしたる、いろどりに、小鰕《こえび》を紅《あか》く散《ち》らしたるもの。此《こ》ればかりは、紅葉先生《こうえふせんせい》一方《ひとかた》ならず賞《ほ》めたまひき。たゞし、四時《しじ》常《つね》にあるにあらず、年《とし》の暮《くれ》に霰《あられ》に漬《つ》けて、早春《さうしゆん》の御馳走《ごちそう》なり。
 さて、つまみ菜《な》、ちがへ菜《な》、そろへ菜《な》、たばね菜《な》と、大根《だいこ》のうろ拔《ぬ》きの葉《は》、露《つゆ》も次第《しだい》に繁《しげ》きにつけて、朝寒《あさざむ》、夕寒《ゆふざむ》、やゝ寒《さむ》、肌寒《はだざむ》、夜寒《よさむ》となる。其《そ》のたばね菜《な》の頃《ころ》ともなれば、大根《だいこ》の根《ね》、葉《は》ともに霜白《しもしろ
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