も就中《なかんづく》これが容易《たやす》き獲《え》ものなるべし。毒《どく》なし。味《あぢ》もまた佳《よ》し。宇都宮《うつのみや》にてこの茸《きのこ》掃《は》くほどあり。誰《たれ》も食《しよく》する者《もの》なかりしが、金澤《かなざは》の人《ひと》の行《ゆ》きて、此《こ》れは結構《けつこう》と豆府《とうふ》の汁《つゆ》にしてつる/\と賞玩《しやうぐわん》してより、同地《どうち》にても盛《さかん》に取《と》り用《もち》ふるやうになりて、それまで名《な》の無《な》かりしを金澤茸《かなざはたけ》と稱《しよう》する由《よし》。實説《じつせつ》なり。
 茹栗《ゆでぐり》、燒栗《やきぐり》、可懷《なつか》し。酸漿《ほうづき》は然《さ》ることなれど、丹波栗《たんばぐり》と聞《き》けば、里《さと》遠《とほ》く、山《やま》遙《はるか》に、仙境《せんきやう》の土産《みやげ》の如《ごと》く幼心《をさなごころ》に思《おも》ひしが。
 松蟲《まつむし》や――すゞ蟲《むし》、と茣蓙《ござ》きて、菅笠《すげがさ》かむりたる男《をとこ》、籠《かご》を背《せ》に、大《おほき》な鳥《とり》の羽《はね》を手《て》にして山《や
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