け。二人《ふたり》とも忘《わす》れて、沙汰《さた》なし/\。
 内證《ないしよ》の情婦《いろ》のことを、おきせん[#「おきせん」に傍点]と言《い》ふ。たしか近松《ちかまつ》の心中《しんぢう》ものの何《なに》かに、おきせんとて此《こ》の言葉《ことば》ありたり。どの淨瑠璃《じやうるり》かしらべたけれど、おきせんも無《な》いのに面倒《めんだう》なり。
 眞夏《まなつ》、日盛《ひざか》りの炎天《えんてん》を、門天心太《もんてんこゝろぷと》と賣《う》る聲《こゑ》きはめてよし。靜《しづか》にして、あはれに、可懷《なつか》し。荷《に》も涼《すゞ》しく、松《まつ》の青葉《あをば》を天秤《てんびん》にかけて荷《にな》ふ。いゝ聲《こゑ》にて、長《なが》く引《ひ》いて靜《しづか》に呼《よ》び來《きた》る。もんてん、こゝろウぶとウ――
 續《つゞ》いて、荻《をぎ》、萩《はぎ》の上葉《うはは》をや渡《わた》るらんと思《おも》ふは、盂蘭盆《うらぼん》の切籠賣《きりこうり》の聲《こゑ》なり。青竹《あをだけ》の長棹《ながさを》にづらりと燈籠《とうろう》、切籠《きりこ》を結《むす》びつけたるを肩《かた》にかけ、二《ふた
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